ノストラダムスの予言

P.ブランダムール校訂 高田勇・伊藤進編訳『ノストラダムス予言集』
1999年 岩波書店

前世紀末のブームの時には全然興味がなかったが、なんだか気になったので『予言集』を読んでみた。
というか、本当はどんなことが書いてあるのか確かめたくなったのだ。ある意味、今のほうがマジでターニングポイントかもしれないので。

読む前に、まず驚いたのは、岩波書店さんが重い?腰を上げて、1999年にこんなまともな『予言集』を刊行していたという事実だ。ブームが老舗を動かしたのか。広辞苑に「うざい」が載るような出来事だと、かなりビックリ。

で、この本をめくると、四行詩とは聞いていたが、本当に四行の詩で、「詩百篇第一巻」〜「詩百編第四巻」と構成されていて、その内容はというと、はっきり言って、16世紀に生きたフランス人が関心を持っていること、それだけなのだ。それ以上でも以下でもない。

だから、フランス文学の専門家でもない限り、日本人が読んでも面白くもなければタメにもならない。ボードレールの詩集を読んでるほうがまだ面白いってくらい、ペストと飢餓と戦争という中世ヨーロッパの「厄災のトリロジー」に満ち満ちた「予言詩」なのだ。王の死とか戦争の敗北とかペストの流行、天体現象などを予言して的中させたらしいが、地球全体に関するような記述は見られない。

例えば、最も多くみられる戦争関係の詩はこんな感じだ。

2-96
燃える松明が夕刻の空に見られん、
ローヌ河の河口と水源近くに。
飢餓、剣。救いの手は遅からん。
ペルシャは踵を返してマケドニアに攻め入る。


天変地異の詩はこんな感じ。

2-51
幾夜にもわたり大地は揺れん、
春先に二度の震動が相継がん。
コリントとエペソスは二つの海に沈まん。
戦は歴戦の二勇士によりて起らん。


前世紀末に一大ブームになった恐怖の大王の四行詩は、初版の予言集には入っておらす、その後に出版された『予言集』に収められている十巻72番の詩である。(四巻から十巻まで増えたということだ)

10-72
1999年七つの月、
恐怖の大王が空より来らん、
アンゴルモワの大王を蘇らせん、
マルスの前後に幸運で統べんため。

この詩で最も問題なのは、蘇る「アンゴルモワの大王」が何者かということだ。
「モンゴロワ」のアナグラムとみなして、チンギスハンを意味すると唱える注釈者が大勢を占めているらしいが、この『予言集』の編訳者によると、これは異本文にあるように「アングーモワ」と同じ言葉で、アングーモワの王といえば、ノストラダムスの時代はアングレーム伯(後のフランソワ一世)ということになる。つまり、ノストラダムスは、将来、フランスにフランソワ一世のような好戦的な王が生まれ、文武両道に優れた黄金時代が訪れるのを予見していたというのだ。
この解釈は、私はしごく妥当だと思う。『予言集』を読むと、ノストラダムスは地球全体の未来なんか考えもしていない。彼の関心はフランス、あるいはヨーロッパがせいぜいということがよく分かるのだ。

さて、もうひとつの問題は、具体的な年代明示を避けてきたノストラダムスには珍しく、1999年と明示された日付がいつを指すのかということだが、これは未だ不明のままのようだ。編訳者は、あれこれ計算して1732年6月12日という日付を提出しているが、勿論その日には何も起こらなかったという。

五島勉さんは『ノストラダムスの大予言』を出版して一大ブームを巻き起こし、21世紀に入ると詐欺師山師と生温かく冷笑されたが、しかし、こんな面白みのないフランスの詩集に注目して、日本であれだけのブームを巻き起こしたその目の付けどころは、評価に値する。1999年には日本トンデモ本大賞の特別功労賞にも選ばれ、同時代人から一生忘れられることのない一発ヒットで一生食べていけるあずさ2号の狩人みたいな好運者だと感心した。




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